大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成9年(ワ)4219号 判決 1998年2月13日

原告

石川きよみ

ほか二名

被告

柴常雄

主文

一  被告は原告石川きよみに対し、金二六一七万五六三八円及びこれに対する平成八年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告石川真代に対し、金一二五九万一八一九円及びこれに対する平成八年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告石川浩巳に対し、金一二五九万一八一九円及びこれに対する平成八年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告石川きよみに対し、金九〇三五万八六七四円及びこれに対する平成八年七月七日(事故日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告石川真代に対し、金四四三一万一七五四円及びこれに対する平成八年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告石川浩巳に対し、金四四三一万一七五四円及びこれに対する平成八年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、道路を歩行中、普通乗用自動車に衝突され、死亡した石川伸治(以下「伸治」という)の相続人たる原告らが、右車両を運転していた被告に対し民法七〇九条に基づいて損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実

1  事故の発生(争いがない)

(一) 日時 平成八年七月七日午前三時二五分頃

(二) 場所 奈良県生駒市桜ケ丘一八八四番地の三先道路上(旧阪奈道路)

(三) 関係車両 被告運転の普通乗用自動車(奈良五八ち三七八一号、以下「被告車」という)

(四) 事故態様 被告車が歩行中の伸治に衝突した(以下「本件事故」という)

2  伸治の死亡(争いがない)

伸治は、本件事故によって脳挫傷等の傷害を負い、即死した。

3  被告の責任原因

被告は法定制限速度時速六〇キロメートルのところ、時速約一一〇ないし一二〇キロメートルの高速度で被告車を走行していたもので、民法七〇九条の賠償責任を負う。

4  原告らの地位(弁論の全趣旨)

原告石川きよみ(以下「原告きよみ」という)は伸治の妻、原告石川真代、原告石川浩巳は伸治の子である。

二  争点

1  過失相殺

(原告らの主張の要旨)

被告は、制限速度を五〇ないし六〇キロメートル超える高速度で進行したもので、その過失は極めて重大であって、伸治には過失相殺の対象となるべき過失は存しない。

(被告の主張の要旨)

伸治は、非市街地を延びる片側二車線の幹線道路のしかも追い越し車線上を漫然歩行するという重大な過失があり、少なくとも三割の過失相殺をなすべきである。

2  損害額全般

(原告らの主張)

(一) 検案書代(原告きよみ負担) 四万円

(二) 逸失利益 一億六三二四万七〇一九円

計算式 一六五三万五一七七円×(一-〇・三)×一四・一〇三八七二五一=一億六三二四万七〇一九円

(三) 死亡慰藉料 二八〇〇万円

(四) 葬儀費用(原告きよみ負担) 一四九万五一六五円

原告きよみは、(二)、(三)の合計一億九一二四万七〇一九円から自賠責保険からの損害填補額三〇〇〇万円を差し引いた一億六一二四万七〇一九円の相続分(二分の一)たる八〇六二万三五〇九円及び(一)、(四)の合計八二一五万八六七四円並びに(五)相当弁護士費用八二〇万円の総計九〇三五万八六七四円及びこれに対する本件事故日から支払い済みまでの遅延損害金を、その余の原告らは前記一億六一二四万七〇一九円の相続分(四分の一)たる四〇三一万一七五四円並びに(五)相当弁護士費用四〇〇万円の総計四四三一万一七五四円及びこれに対する本件事故日から支払い済みまでの遅延損害金の各支払を求める。

(被告の主張)

本件事故当時の伸治の就労実体は不明な点が多く、逸失利益の基礎収入は中学卒の四五歳から四九歳の賃金センサスを基準とすべきである。

第三争点に対する判断(本項以下の計算はいずれも円未満切捨)

一  争点1(過失相殺)について

1  認定事実

証拠(甲一の1ないし15、乙一)及び前記争いのない事実を総合すると次の各事実を認めることができる。

(一) 本件事故は、別紙図面のとおり中央にガードレールがある片側二車線の非市街地を東西にほぼ直線に延びる道路で起きたものである。

右道路の最高制限速度は時速六〇キロメートル、通行量は通常は頻繁であるが、事故当時は深夜であり閑散であった。アスファルト舖装された路面は、平坦で乾燥しており、西進車から見れば、別紙図面で示された九・三キロポスト付近までは一〇〇分の六の下り坂であり、右ポスト付近からは一〇〇分の二の上り坂となっており、照明灯がなく、そのため進路遠方の見通しが困難となっていた。

(二) 被告は、西行き追い越し車線を時速約一一〇ないし一二〇キロメートルで、前照灯を下向きにして、走行していたが、別紙図面<2>(以下符号だけで示す)において、前方約六〇・八メートルの<ア>付近に歩行者を認め、直ちに急ブレーキをかけたが及ばず、<3>において、伸治の背部に被告車の前部を衝突させた(衝突地点は<×>)。衝突後、被告車は<4>に停車し、伸治は、<イ>の位置に転倒した。

(三) 他方伸治は飲酒の後、自車を運転していたが、別紙図面の「被害者石川伸治の車両」において、自車を停車させ、その理由は不明であるが、<ア>地点を西に向かい歩いている際、本件事故に遭った。なお、伸治の血液一ミリリットルにつき一・七ミリグラムのアルコールが検出された。

2  判断

被告は前方の見通し状況に応じて適宜速度を調節し、進路の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠った過失が認められる。幹線道路の追い越し車線上を深夜、歩行するという伸治の過失も軽視できないものの、被告が制限速度を遵守しておれば、本件事故は避けることができたものであり、その速度超過は時速五〇ないし六〇キロメートルという異常なものであること、前記道路状況、自動車対歩行者の事故であることを考え併せると、その過失割合は、被告の八に対し、伸治が二とみるのが相当である。

二  争点2(損害額全般)について

1  検案書代 四万円

証拠(甲七)によれば、検案書代として金四万円を要し、弁論の全趣旨によりこれは原告きよみが負担したものと認める。

2  逸失利益 六九四五万九〇九七円

(主張一億六三二四万七〇一九円)

証拠(甲一の8、11、二ないし六、一三ないし二一四)によれば、伸治(昭和二四年七月一六日生)は、事故当時四六歳の健康な男性であり、平成元年ころ基礎土木業をなす株式会社オオキを設立し、相当程度の収入を得ていたが、平成六年同社が倒産してから、資産の売却によって債務を返済した後、「大真工業」の屋号で、従業員一〇名余りを使用して基礎土木業を営んでいたこと、その営業収入が少なくとも年間四〇〇〇万円に及んでいたこと、毎月数十万円を原告きよみに生活費として渡し、原告ら及び養父を扶養していたことが認められる。

以上の伸治の事業規模、生活状況、家族の状況に照らすと、伸治が平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計、男子労働者四五歳から四九歳までの平均年収七〇三万五四〇〇円程度の収入を得ていたことが推認できるから、右年収を基礎とし、その生活費割合は三割、就労可能年齢は六七歳とするのが相当であるから、これに基づきホフマン方式により中間利息を控除して、逸失利益を算定すると右金額が求められる。

計算式 七〇三万五四〇〇円×(一-〇・三)×一四・一〇四=六九四五万九〇九七円

なお、原告らは伸治の年収は一六五三万五一七七円に及ぶと主張し、営業収入を四一〇〇万円余、所得を一四七〇万円余とする平成七年分の確定申告書(甲一三)、営業収入を三七〇〇万円余、所得を一〇〇〇万円余とする平成八年分(但し一月から七月まで)の確定申告書(甲一四)を提出しているが、右書面は本件事故後作成されたものであり、証拠(甲一五ないし二一三)に照らしてこれを検討すると、その営業収入が申告額に達しているということは認められるとしても、その経費が確定申告書記載のものにとどまるということについては確信を抱かせるには足らず、賃金センサスを超える所得の立証としては不十分である。

3  死亡慰藉料 二六〇〇万円

(主張二八〇〇万円)

伸治が一家の支柱であること、本件事故態様の他本件審理に顕れた事情を考慮して右金額をもって慰謝するのが相当である。

4  葬儀費用 一二〇万円

(主張一四九万五一六五円)

本件事故と相当因果関係がある葬儀費用は一二〇万円とするのが相当であり、弁論の全趣旨により葬儀費用は原告きよみが負担したものと認める。

第四賠償額の算定

一  原告きよみの賠償額

1  第三の二の2、3の金額に同原告の相続分である二分の一を乗じ、更に1、4の金額を加えると四八九六万九五四八円となる。

計算式 (六九四五万九〇九七円+二六〇〇万円)÷二+四万円+一二〇万円=四八九六万九五四八円

2  1の金額から前記第三の一認定の伸治の過失割合を減じると、三九一七万五六三八円となる。

3  原告ら自認にかかる自賠責保険金三〇〇〇万円は相続分に従って填補されたと認められるから2の金額から一五〇〇万円を控除すると二四一七万五六三八円が求められる。

4  3の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、同原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告が負担すべき金額は二〇〇万円と認められる。

5  よって、原告きよみの請求は、3、4の合計二六一七万五六三八円及びこれに対する本件事故日である平成八年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

二  その余の原告らの賠償額

1  第三の二の2、3の金額に同原告らの相続分である四分の一を乗じると二三八六万四七七四円となる。

計算式 (六九四五万九〇九七円+二六〇〇万円)÷四=二三八六万四七七四円

2  1の金額から前記第三の一認定の伸治の過失割合を減じると、一九〇九万一八一九円となる。

3  自賠責保険金三〇〇〇万円は相続分に従って填補されたと認められるから2の金額から七五〇万円を控除すると一一五九万一八一九円が求められる。

4  3の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、各原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告が負担すべき金額は、各原告につき一〇〇万円と認められる。

5  よって、同原告らの請求は、3、4の合計一二五九万一八一九円及びこれに対する本件事故日である平成八年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

交通事故現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例